大分建設新聞

四方山

信用

2022年09月01日
 福沢諭吉ゆかりの中津市の市役所前に、ユニークな郵便ポストが登場した。福沢と、日本資本主義の生みの親、渋沢栄一が握手するイラストが添えられている。2024年に1万円札の肖像が福沢から、渋沢に交代するのを受けてのデザインポストである。中津市と、渋沢の生誕地である埼玉県深谷市との合同プロジェクトという▼ともに若かりし頃、海外で見聞を広め、日本の近代化に努めた先覚者である。だが、立ち位置は対照的だった。西洋文明を第一とする福沢に対し、渋沢は「論語」の精神を重んじた。だからといって、その思想が全く異なるということではなかった。とりわけ「信用」についての考え方は一致していた▼「己れ人を信じて、人もまた己れを信ず」。人間関係の根幹に「信用」を見ていた福沢と同様、渋沢もまた「信用は実に資本であって、商売繁盛の根底である」と、「信用第一」を唱えた。だが、信用を失うのは一瞬である。かつては優良企業とうたわれた日野自動車。排ガス性能試験をめぐる相次ぐ不正の発覚で、信用は地に落ちた▼その結果、何が起きているか。同社のホームページを開く。目に飛び込むのがお詫び。そして商品ラインアップの車種ごとの写真には、一部を除いて「現在、お取り扱いがございません」のオンパレードである。メーカーなのに売る商品のない異常事態になっている▼なぜ、不正がまかり通っていたのか。3月に最初の不正が発覚した際、同社は調査委員会を発足させ、先ごろ調査報告書が公表された。いわく「上の意見は絶対で、神様のように崇め、上(神様)が決めたことは絶対」「『できません』は言えない」…。渋沢は「道徳的であることが最も経済的である」と説いた。組織の道徳観の欠如が何をもたらすか。日野自動車の教訓である。(熊)
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