大分建設新聞

四方山

元の木阿弥

2024年05月28日
 小説というのは荒唐無稽なほど面白いことを教えてくれたのは、歴史小説家の隆慶一郎さんだった。亡くなって35年がたつ。代表作『影武者 徳川家康』は、家康は関ヶ原の戦いで討たれ、家康に成り代わった身分卑しき影武者が戦乱の世を嘆き、太平の世を実現するため生涯を捧げるという話だ▼作者は、妻子を自害させるなど非情だった家康が関ヶ原の戦い以降、人情味豊かな性格に変わった経緯に着目し、影武者説を作品に盛り込んだ。むろん創作である。影武者が本人に取って代わるなど、小説世界だけの話かと思っていたが、実際にあったらしい。戦国時代、大和国(奈良)を治めていた筒井順昭である▼病にかかり自身の死期が近いことが分かった。気がかりなのはわが子の行く末。3歳の幼子だった。そこで、自分と瓜二つの木阿弥という僧侶を影武者に仕立てることにした。万事了解した木阿弥は順昭の死後3年間、領主として振る舞い、遺児への家督相続の環境を整えた。大任を終えると、木阿弥は城を追い出され元の貧しい僧に戻った。「元の木阿弥」の語源とされる▼自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件に端を発した政治不信。連立を組む公明党を含めて絶対的な安定多数を誇っていたのも今は昔、右肩下がりで支持率を落とす中、野党第一党の立憲民主党が存在感を増していたはずだった。ところがここに来て急ブレーキがかかる事態に直面している▼それもそのはず、政治資金パーティーを全面禁止する法案を出していながら、岡田克也幹事長自らが開催しようとしたためだ。党内からもブーイングが巻き起こり中止に追い込まれたが、あまりにもお粗末な展開だった。せっかく政権奪取も見えてきたというのに、党幹部自らが墓穴を掘ってしまうとは。まさに元の木阿弥である。(熊)
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