大分建設新聞

四方山

銃撃事件から2年

2024年07月09日
 この季節になると、聴きたくなるCDがある。屈指のメロディー・メーカーだった大滝詠一さんの「ア・ロング・バケイション」。1981年の初リリース後、繰り返し再販され、短命が宿命のポップスのなかでは異例の息の長いアルバムであろう。10曲中9曲は、数々のヒット曲を送り出している松本隆さんが作詞を手掛けた▼中でもCMソングにもなった「君は天然色」はシングルカットされ大ヒットとなった。「想い出はモノクローム/色を点けてくれ」のフレーズが印象的で、しゃれたラブソングだと思い込んでいた。だが、違っていた。闘病中の妹を亡くした喪失感の中で綴られた作品だったことを最近になって知った。「モノクローム」とは、深い悲しみで景色から色が失われた心情を表現した言葉だったという▼朝日新聞7月3日紙面の安倍晋三元首相の妻、昭恵さんのインタビュー記事は圧巻だった。悲劇の銃撃事件から2年がたとうとする中での取材で「(安倍氏の死の)『消化』は全然できていない。今の方が思い出します」という現在の心境を引き出している。目に映る光景はモノクロームのままなのだろう▼驚いたのは、刑務所に出向き、犯罪被害者の一人として受刑者に講演を行っていることだった。こんなことを語っているという。「恨むという気持ちを持ちたくないと思っている」。「恨もうが祈ろうが、命は返ってきません。だったら現実をどう生かすかが大切だ」▼「命は返ってこない」のひと言に、深い悲しみを思う。それでも、〈恨みたくない〉という言葉に驚かされる。安倍昭恵さんといえば、ファーストレディーになってからも奔放な言動がしばしば話題になった。周囲が眉をひそめても、安倍氏は昭恵さんを守り続けた。その理由が少し分かったような気がした。(熊)
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