大分建設新聞

四方山

散り際

2024年07月31日
 「ちりぬべき 時知りてこそ 世の中の 花も花なれ 人も人なれ」。戦国武将、細川忠興の妻、ガラシャの辞世の句だ。花は散るべき時期を知って散ればこそ美しいのであって、人もまたそうありたい。そんな意味であろう。関ヶ原の戦いで、敵方の捕虜になることを拒み自ら命を絶った▼あり得ない失言を繰り返し辞職に追い込まれた前静岡県知事は、この句を引いて自身の心境を披歴してみせたが、世間の失笑を買うだけだった。それまでの地位にしがみつく態度は、「時知りてこそ」とはかけ離れていたからである。とはいえ、権力者にとって「散り際」を知ることは難しいらしい▼11月の米大統領選で、再選を目指していた民主党のバイデン大統領が撤退を表明した。81歳という年齢に加え、相次ぐ言い間違いに大統領としての資質に疑問の声が相次いでいた。言い間違いといっても、よりによってウクライナのゼレンスキー大統領をプーチン氏と呼んでしまったり、盟友のハリス副大統領を政敵のトランプ氏と言ってしまうなど、あり得ない内容である▼結局、出馬辞退を求める党内の圧力に抗しきれなかった。大統領選直前のドタキャンである。国内に目を移せばバイデン氏よりも心臓に毛は生えているご仁もいる。裁判沙汰になった県農協の会長人事をめぐるゴタゴタ劇ではない。パワハラを告発された兵庫県知事のことである▼告発文の内容が「嘘八百」でないことが次第に明るみになる一方で、2人の県職員が自ら命を絶つという異常な事態となっている。それでも「仕事をしっかりやるのが私の思い」と言ってのける。何ごとも「私」優先である。そういえば…と思う。記録的な低支持率にもかかわらず強気の岸田文雄首相である。「散り際」を知らないというのは、存外強いのかもしれない。(熊)
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