危機
2024年10月29日
一夜明けたら会社が潰れていたというのは、いまどき珍しい話ではない。けれども「名門」とうたわれた企業となれば話は別だ。老舗のAV機器メーカーとして知られ、北米市場で高いシェア率を誇り「世界のFUNAI」とも呼ばれた船井電機(大阪府大東市)が巨額の負債を抱え、破産手続きに入った▼従業員2000人の大企業である。社員のほとんどが会社の破綻を予期しておらず、出社していきなり解雇通告を突き付けられたという。1951年の創業。トランジスタラジオの製造を手掛け、次第にテレビ、ビデオなどのAV機器に手を広げた。自社ではなく他社ブランド製品を製造するOEM供給で業績を伸ばした▼技術力のある企業として知られた。破綻の原因は、本業の不振ではない。直接の引き金となったのは2021年、本業とはまったく関係のない脱毛サロンを買収したことだった。このサロン運営会社自体が負債を抱えており足かせとなった。異業種参入という重要な経営判断が最悪の事態を招いた▼序盤の「そよ風」が「暴風」となり、政権与党に激震を走らせた衆議院選挙。当初、国民世論の関心は物価高対策などの経済政策のはずだった。世論調査を見ても、いわゆる自民党旧安倍派などの「裏金」と呼ばれる「政治とカネ」の問題は、最重要の論点にはなっていなかった。ところが、ふたを開けてみれば…である▼原因は明白だ。投開票日の数日前に発覚した、自民党の2000万円問題である。裏金事件による非公認候補が代表を務める党支部に、公認候補と同額が支給されていた。釈明は通用しまい。石破茂総裁ら党幹部の判断ミスが老舗政党の結党以来最大の危機を招いた。「日本を守る」を掲げた石破政権だが、自身のオウンゴールで早くも最大のピンチを迎えたようだ。(熊)