検察の体質
2024年10月31日
58年ぶりに無罪が確定した袴田巌さん(88)に、何度か会ったことがある。自身を「神」だと言い、「皆が幸せに暮らせるよう、汚れたばい菌の世界と戦っている」とも言った。無実の罪で長期にわたって「死刑」の恐怖に直面し続ける中、自分の心の中に妄想の世界を作り上げていたように見受けられた。それでも何かの折に、ふと心にとどめていた感情が漏れる▼拷問とも呼べるような取り調べを行った静岡県警のトップ、本部長が先ごろ、袴田さん宅を訪れ謝罪した時もそうだった。深々と頭を下げる本部長に、袴田さんはこう応じたという。「権力は繰り返して認めていくだろうね、一般の国民の言い分をね」。なぜ「私は事件と無関係」という声に耳を傾けてくれなかったのか、という悲痛な叫びにも響く▼無罪を言い渡した静岡地裁は、捜査当局による証拠品「捏造」があった、と断じた。県警本部長による直接謝罪は、この判決を受けてのことだ。当然ながら「捜査当局」には袴田さんを起訴し、死刑を求刑した「検察」も含まれる。だが、検察の対応はどうであろうか▼無罪確定を受けて、検察トップの検事総長は謝罪どころか、控訴断念のコメントの中で「(判決)到底承服できないものであり、控訴して上級審の判断を仰ぐべき内容」と開き直った。この期に及んでも袴田さんが犯人だと言っているようなものである。同時に、裁判所の権威をこれほど踏みにじる言葉もあるまい▼大阪地検の元トップが部下の女性検事に性的暴行を加えていた事件。検察はマスコミの取材に口をつぐんできたが、初公判を迎えてようやく事件の概要が明らかになった。女性検事は会見を開き、検察が告発を妨害しようとした疑惑も浮上している。国民の信頼があればこその検察である。ばい菌に汚されているようだ。(熊)