薩摩守
2025年04月24日
日本人は正直な国柄。そんなSNSの投稿が世界中を駆けめぐり話題になったことがある。今から10年ほど前の話だ。発信の主は、世界的な人気を誇るポップシンガーのジャスティン・ビーバー。来日した最中、現金入りの財布をなくした。するとほどなく手つかずのままの財布が警察に届けられ、本人の手元に戻った▼よほどうれしかったのだろう。彼はSNSにこんなメッセージを寄せた。「日本が大好きだ!財布が戻ってきたなんて信じられないよ。ありがとう!」。またたく間に拡散し、ネット上は「よその国ではあり得ない」「日本、すごい!」といった称賛のリポストであふれた。日本人として誇らしく感じられるエピソードだが、「正直な国民性」というのは怪しいようだ▼今月6~7日にかけて、中日本高速道路(NEXCO中日本)管内で発生した自動料金収受システム(ETC)の大規模なシステム障害。計8都県にある東名高速道路などでETCが1日半にわたって使えなくなり、同社はETCレーンのバーを常時開放するという異例の対応をとった。もちろん、タダではない。料金の後納を呼び掛けた▼同障害が起きた料金所を通過した車両はおよそ96万台と見られるという。ところが、NEXCO中日本の18日までの集計によれば、「後払い」の申し込みは約3万6000件に留まっている。率にしてわずか3・8%である。残りは無賃利用を決め込んだようだ▼無賃乗車のことを「薩摩守」とも呼ぶ。鹿児島県人には迷惑な話だが、源平時代の平家で名の知られた武将、平忠度が薩摩守を称していたことにちなむ言葉遊びである。それにしても、こうも薩摩守だらけとなると、「正直な国民性」というのは幻想だったか。自画像を突きつけられたかのようで、寂しい。(熊)