公道は安全か
2025年05月08日
「車内に取り残された父は、心の強い人だったので、恐怖や苦痛と戦って、力尽きるまで生きて帰りたいと思っていたはずです。それを思うと体が震え、胸が締め付けられる思いです」。読んでいるうちに目頭が熱くなり、文字がかすんでしまった▼埼玉県内で今年1月末に道路が陥没してトラックが転落した事故。3カ月を経てようやく70歳代の男性運転手の遺体が見つかった。新聞に掲載された遺族の言葉は悲しみに満ちていた。勤務先の会社代表の言葉も胸を打った。「被害者のような良い方がなぜこのような悲惨な事故に巻き込まれなければならないのか、心の整理がつきませんでした。自分を責めることもありました」▼その上で、こう綴った。「関係各署の、皆さまには、本件事故の原因の特定・改善にご尽力いただき、二度と同じことが起こらないように、世の中の人が公道を安心して走行できるようにしていただきたい」。現場は管理が行き届いたはずの都市部を走る県道だった。悲しみを越えて、公道の安全を訴えるその姿勢に頭が下がる▼事故後、国土交通省が発表した集計によると、2022年度に起きた道路陥没事故は、全国で1万548件。その多くは上下水道設備の老朽化が原因とされる。不思議なのは、最新のデータと言いながら、3年前の集計である。各地がオンラインでつながっている時代というのに、日本という国のシステムは一体、どうなっているのかとさえ思う▼しかも、「技術大国」と称しながらご遺体の確認に3カ月も要するとは…。長年インフラの老朽化が叫ばれながら、国として全国的な対策が講じられてこなかったのが実状であろう。「公道を安心して走行できる」。そのささやかな願いは国民が等しく抱いている思いである。尊い犠牲を無駄にしてはならない。(熊)