入札を巡る事件
2025年05月26日
テレビの大相撲中継にばっちり映る土俵前の「砂かぶり席」。夏場所でも歌手の橋幸夫さんの姿が報じられるなど注目度の高い特等席である。昔は、その筋の親分衆が姿を見せることもあったという。規則の厳しい刑務所も、大相撲のテレビ観戦だけは特別。服役中の子分に元気な姿を見せるだけでなく、余計なことはしゃべるな、というシグナルの意味もあったとか▼そんな愚にもつかない話をつい思い出してしまった。大分市を舞台にした、ごみ収集運搬業務を巡る官製談合事件。23日に大分地裁で開かれた元環境部長の初公判の傍聴席に、意外な人物の姿があったという。佐藤樹一郎県知事である。刑事事件の法廷に、県のトップが足を踏み入れるのは異例であろう▼読売新聞24日付紙面によると、佐藤知事は「審理の状況を注視していきたい」とコメント。事件当時、大分市長だった。クリーンなイメージを大切にしているだけに、在任中の痛恨事として心を痛めているのだろう。事件発覚時、「パンドラの箱が開けられた」と印象的な言葉を口にした足立信也市長は、出張中でその姿はなかった▼佐藤知事、足立市長にとって、この日は忘れられない日になったのではあるまいか。県警は初公判に合わせるように、昨年5月に市が発注した指名競争入札で、予定価格を漏らしたとして現職の大分市議らを逮捕したからだ。官製談合事件とは全く別の事件だけに、関係者を驚かせた。同時に市にとっては異常事態である▼官公庁の不正を手掛ける捜査2課にとって、年に1件でも事件化できれば御の字と言われる。数カ月の間に2件である。それもそのはず。先の談合事件で県警は大量の文書を押収した。捜査員が言う、「宝の山」である。となると、三の矢も…。県都はしばらく戦々恐々の日が続きそうだ。(熊)