大分建設新聞

四方山

自由と独裁

2025年06月12日
 「翼よ、あれがパリの灯だ」。若き米国人飛行家、チャールズ・リンドバーグが1927年、大西洋を単独飛行で横断し、人類の夢と希望を翼に乗せたその一言は、今も語り継がれている。だがその〝空の英雄〟の生涯を振り返るとき、暗い影を落としているのがナチス・ドイツとの関係だ▼リンドバーグは1930年代、足繁くドイツを訪問し、ナチスの要人らと面会。ヒトラーの誕生会に招かれ、勲章を授与されるほどの親密な関係を結んだ。39年にドイツがポーランドに侵攻すると、米国社会で「欧州での戦争に関わるべきではない」などと、ナチス寄りの発言を重ねた▼空の英雄の言葉に、多くの米国民は支持を寄せた。米の対独外交にも重しとなり、結局対独参戦は41年暮れの日本軍による真珠湾攻撃を待たねばならなかった。リンドバーグが翼の先に見ていた灯は、自由の光だったのか、それとも独裁の炎だったのか。今も歴史の問いである。安倍昭恵さんのロシア訪問のニュースに、リンドバーグのそんなエピソードを思い起こした▼昭恵夫人は宮殿のような部屋でプーチン大統領と面会し、夫・晋三元首相に寄せられた哀悼の言葉に目を潤ませた。私人としての行動だったというが、その模様は世界中に配信された。海外の人たちはどう受け止めたのだろうか。大統領とはいえ、世界の秩序を破壊した責任者として、国際刑事裁判所から逮捕状が出ている人物である▼その真向かいで目頭を押さえる。個人の感情では済まされない重みが宿る。外交では「誰が、どこで、誰と会ったか」―それ自体がメッセージになる。私人であっても、「元首相夫人」としての振る舞いは公の色彩を帯びる。思えば、くすぶり続ける「森友問題」も夫人の行動が出発点だった。果たして、日本の国益は見えたのか―。(熊)
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