工事代金
2025年06月27日
「賃金支払いの実効性確保」。そんな見出しが弊紙6月7日付1面記事に踊った。建設業界の労務費、賃金未払い問題を受けて、国土交通省は業界に「踏み込んだ対応」を求めるとともに、自らも監督官庁として対策に乗り出す覚悟を示した。現場で働く人々にきちんと賃金が届くよう、業務実態に即した調査や是正指導を進めるという▼遅きに失した感もあるが、現場に向けたまなざしは確かにある。そんな国交省の動きを横目に、いま大阪では「夢」の影で悲惨な事態が起きている。大阪・関西万博で建設された海外パビリオンのいくつかで、下請け業者への工事代金が支払われていないというトラブルである。マルタ館、アンゴラ館、ネパール館…次々に報じられている▼損害を被っている業者らによる「被害者の会」が発足し、法的手続きに入る事態にまで発展している。会に加わった業者の声は悲痛だ。「厳しいスケジュールの中、奴隷のように働かされた」「支払いを何度も引き延ばした上、揚げ句に『支払い拒否』とあっては、会社は潰れてしまう」▼パビリオンの発注元はもちろん、外国の政府である。工事は外国人通訳を介した指示で行われ、現場は混乱を極めたとされる。元請けには工事経験のないイベント会社が入ったというが、商習慣が異なるせいか、賃金が支払われないどころか、逆に材料費を請求されたという異常事態も報じられている▼万博協会に救済を求めても「工事は民民の契約で関与しない」と沈黙を決め込む。周知のように、万博の会場整備は遅れに遅れた。協会の見通しの甘さが原因だった。にもかかわらず、犠牲を立場の弱い下請け業者に押しつけるその姿勢は、到底納得できるものではない。制度で人を守ろうとする国交省を、少しは見習ってほしいものである。(熊)