大分建設新聞

四方山

目の力

2025年07月10日
 チベット仏教の最高指導者で、ノーベル平和賞受賞者のダライ・ラマ14世といえば、中国政府の弾圧から逃れた亡命チベット政府の精神的支柱として知られる。90歳の誕生日を迎えるに当たり、「転生制度を継続する」との声明を発表した。自身の生まれ変わりが、15世として後を継ぐという宣言である▼無信心の身にとっては、21世紀の時代に…と思わず首をかしげてしまうが、魂の系譜を守ることがチベット仏教の核心であり、チベット族という民族統合の象徴ということなのだろう。14世の死後、高僧が生まれ変わりの男児を捜す。中国政府はチベット自治区への統制を強化し、亡命政府には圧力を加え続けている。まさに民族の存亡をかけた重たい魂の継承である▼それに比べて、公選で選ばれた静岡県伊東市市長というポストは何と軽いことか。現職を破り就任したとたんに、学歴詐称疑惑に揺れる田久保真紀市長のことである。「卒業証書らしきもの」を議長にチラ見せしたかと思えば、「卒業したと思っていたが除籍だった」と釈明。魂が抜けたようなやり取りに市政は混迷している▼市政「改革派」の旗手としてさっそうと登場したと報じられている。箱物行政反対と、もっともらしい公約を掲げ、市民の支持を集めたという。だが、自身の経歴を偽って、どうして市の未来を語れようか。「改革派」とは名ばかり。「履歴にこだわる凡人」に過ぎなかったことを自ら露呈してしまった▼折しも参院選は佳境だ。「給付金」「消費減税」…。財布に優しい公約が各党から飛び出している。だが、一瞬の心地よさのために未来を犠牲にするような政治は、やがて「魂を失った政治」へと堕ちる。魂は見えないが、時に見抜かれる。私たち有権者が試されているのは、その「目の力」なのかもしれない。(熊)
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