念には念を
2025年07月18日
参院選で全国を遊説に飛び回った石破茂首相の手の甲をクローズアップでとらえたスクープ写真が話題だ。『週刊新潮』7月17日号が放ったスマッシュヒット。街頭演説で訪れた土地の特産品、県議の名前が細かい手書き文字でびっしり。写真を見ると、ラーメン店の名前も記されていた。演説のカンペである▼同誌は「このカンペ、遠目には汚れにしか見えない」と皮肉たっぷりだ。だが、政治は言葉。ましてや日本国首相である。それを思えば、固有名詞を間違えるわけにはいかない。小泉八雲の『耳なし芳一』を思い出した。亡霊から逃れるため、全身にお経を書き込んだ僧の話である。念には念の備えだったのであろう▼いささか不謹慎な話になるが、用心深さでは、政治家よりもはるか上を行く連中がいる。空き巣などの窃盗団だ。最近は用意周到らしく、事前の下見は徹底して行われるという。家族構成、留守の時間帯などが犯行グループ内で共有され、その情報はマーキングとして表札、郵便受けの下側など見落としがちなところに書き込まれる▼ALSOKによると、「W」(女性)、「ル」(留守)、「SS」(土日休み)―などを実例に挙げている。シールを貼り付ける手口も確認されているという。最近急増しているのが、銅が使われているエアコンの室外機窃盗の被害だ。警察庁の集計では、金属価格の高騰を背景に2024年には全国で約3400件。5年前の13倍である▼県内でも国東市の民家から室外機を盗んだとして、73歳の男が逮捕された。検挙事案として県警から発表されたことを勘案すれば、被害件数はかなりの数に上るだろう。まずは家の周囲を見て怪しい記号などの書き込みのチェック。不審点があれば迷わず警察へ相談するのが鉄則だ。それこそ念には念の対策である。(熊)