カボス
2025年09月12日
裏庭の1本のカボスの木。植えてかれこれ4、5年にもなる。大人の背丈ほどになり、いつかいつか、今年こそはと、実がなるのを毎年待ち望んできた。だが期待は見事に裏切られてきた。とうとう家人が「このカボスの木、何かおかしいんじゃないの」と愚痴っていた矢先の今年5月。数輪の白い花が咲いているのを見つけた▼初めて見る花、もしかしてついに実がなるのかも…。ワクワクしながら見守っていたのだが、花は1輪落ち2輪落ち…とうとう最後の1輪だけになってしまった。やっぱりダメか…。だが、である。良く見ると、たった一つ残っていた花が豆粒ほどの小さな実に変わっているではないか▼そしてその実は少しずつ成長し、9月に入ったいま、ピンポン玉くらいに育ってくれた。カボスといえば、竹田市の姉から毎年どっさり送られてくるが、たった1個実ったこのカボスは別格で、奇跡のような存在だ。さてどうやって味わおうか、ワクワクしながら収穫の時を待っている▼県民にとって香りの良い果汁といえばカボスだが、東京や大阪では、ライバルである徳島県のスダチが幅を利かせ、大分県出身者は少し寂しい思いもしてきた。「カボスVSスダチ」論議は両県人の間ではにぎやか。きゃしゃな姿と酸っぱさからスダチを「乙女」、豊満な姿で味わい深いカボスを「熟女」に例えての粋な論争も飛び交ってきた▼以前、東京勤務の時にお世話になった臼杵市出身のSさん(故人)は、古里をこよなく愛し、大分県人の気概で都会の荒波に立ち向かった人だった。東京の自宅にもカボスの木を植え、「みそ汁をご飯にぶっ掛け、カボスを搾って食べたあの旨さは忘れられない」と少年時代の思い出をしみじみと語っていたのが印象に残っている。今年もまたカボスが旬入りを迎えた。(政)