微笑み返し
2025年09月16日
罰当たりな泥棒がいたものだ。宇佐市内の神社で、さい銭箱を丸ごと盗んだとして市内の無職男性が逮捕された。近くの空き地には硬貨が散乱しており、さい銭箱を逆さまにしてこぼれ落ちた現金を盗んだらしい。空っぽになったさい銭箱はそのまま放置されていたという。神をも恐れぬ荒っぽい手口。地域の人々の祈りが込められたさい銭箱だが、男にとっては貯金箱の感覚だったのだろう▼もしかしたら、あの御仁の目にも、私たちの日本国がちょっと揺さぶればお金がじゃらじゃらこぼれ出る巨大な貯金箱に見えていたのかもしれない。そんな思いが頭をかすめる。ようやく決着を見た関税交渉で、同盟国であるはずの日本に圧力をかけ続けてきたトランプ米大統領のことである▼交渉の結果、日本にかけられる自動車関税は27・5%から15%に引き下がった。一見すると、日本の交渉勝ちにも見えるが、前のバイデン政権に比べると、日本車の税率は約6倍という異常な高さである。高関税政策をとるトランプ政権は関税を主要な収入源とみなし、自らの利益さえ確保すれば、他国に打撃を与えても構わないと考えているようだ▼問題は、関税引き下げの見返りとして日本に約束させた80兆円に上る巨額対米投資の仕組みである。その投資の行き先について、最終的に決めるのは米大統領だという点だ。巨費を用立てる日本政府の役割は単に「助言」役である。しかも拒めば関税を再び引き上げられる約束も取り交わされた▼国益をかけた関税交渉を終えた赤沢亮正経済再生相は緊張から解放されたせいなのか、今後に触れて「キャンディーズ風に言えば普通の男の子に戻って」と、余裕たっぷりに語った。だが「令和の不平等条約」と見まごう決着内容を見るにつけ、「微笑み返し」とはいかないようだ。(熊)