高市丸の船出
2025年10月27日
壇上に立った高市早苗首相は、鮮やかなブルーのスーツ姿だった。24日の衆参両院での所信表明演説。1885年の初代首相、伊藤博文から刻む日本の内閣史。140年を経て誕生した女性宰相の第一歩は〝勝負服〟で臨んだ。私淑する英国初の女性首相、サッチャーのシンボルカラーでもあった。「鉄の女」と呼ばれたサッチャーに自身を投影していたのかもしれない▼演説の柱は経済だった。「今の暮らしや未来への不安を希望に変え、強い経済を作る」「日本列島を強く豊かに」と宣言した。外交、安全保障についても「絶対にあきらめない決意」を重ねる。30分ほどの演説中「強い」「力強い」は10回ほどに及んだ。物価高、緊張感高まる国際情勢に抱きがちの国民の不安を押し返すかのように、パワーワードがクイのように打ち込まれていた▼一方で、高市首相は出身地・奈良にちなみ、「事独りさだむべからず」という聖徳太子の言葉を引きながら「共に語り、共に悩み、共に決め」たいとも述べた。サッチャーばりの「鉄の女」たらんとする信念と、太子の「和の精神」。その両立は易しくないが、顕在化する政治の分断を越えるために必要な作法であろう▼高市氏の政治の師ともいえる安倍晋三元首相は、敵味方を峻別する明快さで時代を動かした。一方で、その明快さが社会に継ぎ目を残したことも否めない。だからこそいま求められる「強さ」は、相手を圧す力だけではなく、異論を抱えた場を差配する力だろう▼保守政治家として再評価の機運が高まる大平正芳元首相はこんな言葉を残している。「明日枯れる花にも水をやる」。青い勝負服が示すのは、鉄の硬さだけでなく、人に寄り添う冷静な勇気の青であってほしい。強さと傾聴を抱きしめて出航した高市丸。乗員の一人として見届けたい。(熊)




