大分建設新聞

四方山

失楽園

2025年11月04日
 人生に例えられる「航海」。英文学を代表する詩人のジョン・ミルトンは大叙事詩『失楽園』で、人間の営みを「神の摂理の海を航る」と記した。それになぞれば、神ならぬ世論に祝福されて船出したと言えようか。高市早苗内閣のことである。朝日新聞によると内閣支持率は68%。発足直後としては、2001年の小泉純一郎内閣以来、3番目の高さである▼市場も敏感だ。日経平均株価は史上初の5万円台を突破した。わずか3カ月で1万円の伸びだ。経済誌などは「高市トレード」「高市ラリー」と大はしゃぎである。そして、外交。就任早々のマレーシアでのASEAN首脳会議を皮切りに、日米首脳会談、韓国で開かれたAPEC首脳会議と、超過密の外交日程を乗り切り、上々の滑り出しとなった▼中でも、クセの強いトランプ米大統領との初顔合わせとなった日米首脳会談は「大成功」との賛辞が飛び交う。だが、その結果、動くのは巨額のカネだ。関税問題で突きつけられた80兆円の対米投資の履行と、米国からの防衛装備品の爆買いの約束である▼産経新聞によると、食料品の消費税をゼロにすると年5兆円の減収だという。投資としての80兆円と単純に比較するのは乱暴だが、その16年分に当たる。日本の未来を担保にしたローンのようでもある。高市、トランプの両氏はともにヘリコプターに乗り、首都上空を飛び、親密ぶりをアピールした▼だがヘリは米軍が仕立てた軍用機である。それに一国の首相が疑問もなく乗り込む。日本は独立した国家だというのに、どこかいびつだ。加えて、高市氏はトランプ氏をノーベル平和賞に推薦する考えを伝えたという。世界はどう受け止めるのだろうか。戦後80年の節目に行われた首脳会談。日本は占領の影をなお引きずる〝失楽園〟なのだろうか。(熊)
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