大分建設新聞

四方山

法の線

2025年11月12日
 〝スーパーボランティア〟の尾畠春夫さんが、来春、県内に初めて開設される夜間中学に通う。先ごろ開かれた体験教室の模様について、毎日新聞11月1日付紙面が詳報していた。尾畠さんは「内容は90%分かりませんでした」と語りながらも、「先生の言うことを聞いたり書いたりできるだけで最高の幸せ」と、笑顔を見せていたという▼御年86歳。全国一最高齢のピカピカの一年生であろう。家が貧しく、小学4年で「でっち奉公」に。以降、ほとんど学校に通えなかったという。日本国憲法は無償の義務教育を定めているが、貧しさゆえにその権利を享受できなかった。思えば、1939(昭和14)年生まれ。学齢に達したころは、敗戦の混乱期だった▼石川一雄さんをご存じだろうか。63年に埼玉県狭山市で女子高生が誘拐、殺害された事件で逮捕された。謎が多い事件として知られ、有罪が確定し仮釈放後も冤罪を訴え続けた。尾畠さんと同じ年に生まれ、今年2月に86歳で他界した▼被差別部落の出身だった。いわれのない差別と貧困の中で育ち、学校教育は満足に受けられず、識字能力はおぼつかなかった。刑務所で読み書きを教わり、最初に覚えた漢字は「無実」だったという。「再審無罪を勝ち取ったら夜間中学に通う」。そのささやかな願いはついにかなわなかった▼第3次再審請求だけで約19年を費やしたが本人死亡で終了。その後の第4次請求は妻が引き継いでいる。袴田巌さんは無罪が確定するまで58年を要し、再審法の不備が強く指摘された。臨時国会ではその改正が議論されようとしている。高市早苗首相は所信表明で必要性に言及し、衆院予算委では「政府の責任で迅速に検討する」と強い意欲を示した。黒板の白い線のように、法の線もまっすぐ引き直すような議論を期待したい。(熊)
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