トランプのカード
2025年12月01日
史上初のウクライナ出身大関となった安青錦。師匠・安治川親方(元安美錦)の「安」「錦」のあいだに、母国の国旗の色「青」を挟んだ四股名である。その安青錦が長崎市の平和公園を訪れ、万感の表情でこう述べたという。「平和が一番大切」。故国に残した家族は、今もミサイルに怯える日々が続く。それを思うと、新大関の発した「平和」の一語は重い▼ロシアの侵攻開始から早くも4年目。トランプ米大統領の仲介で和平の道が模索されている。その和平案とは、ウクライナ側にNATO加盟断念と、一部領土のロシアへの割譲を迫るもの。期限までに応じなければ、米はウクライナへの軍事支援を打ち切ると通告しているとも報じられる。ロシアに肩入れするような内容であり、ウクライナ国内では「見捨てられたのか」との不安が渦巻いているという▼開戦以来、欧州諸国と歩調を合わせてウクライナを支援してきたことを思えば、豹変である。万事損得ずくめの「取り引き」と心得るトランプ氏にとって、外交上の約束など、意に介していないのかもしれない。翻って日本の安全保障の根幹である日米同盟は、高市早苗首相が言う通り「揺るがない」のであろうか▼台湾有事を巡る高市首相の答弁で日中関係が緊張度を増す中、日米首脳電話会談が行われ、高市首相は「極めて親しい友人であり、いつでも電話をしてきてほしいという話があった」と胸を張ったものだ。だが、朝日新聞のスクープ記事によれば、トランプ氏は「沈静化を図る必要がある」と伝えたという▼要は、同盟国であるはずの日本に釘を刺した格好である。通商を重んじる米国にとって、米中関係が重いと判断したようにも見受けられる。日本は一枚の「カード」にすぎないのか…。ウクライナの不安はひとごとではあるまい。(熊)




