蚊帳の外
2026年01月19日
「令和おじさん」が表舞台を去る。自民党の菅義偉元首相が引退を表明した。首相としては短命政権ゆえに印象に乏しいが、その政治家人生で最も精彩を放ったのは、官房長官として安倍晋三政権を支え続けた時代ではなかったか。黒子に徹して実務を握り、トップを盤石にする。その「あうんの呼吸」こそが政権安定の要だった。党務を担う幹事長も同様であろう▼通常国会冒頭解散に打って出る高市早苗首相だが、どうもその重大決断について、党総裁の高市氏を支える鈴木俊一幹事長は、事前に通告されていなかったというのである。「蚊帳の外」という言葉とは、本来もっとも無縁なはずの要職だというのに耳を疑う▼自民党の歴史を振り返れば、佐藤栄作、安倍という二つの長期政権があった。佐藤元首相は田中角栄氏(後に首相)を幹事長に登用し、選挙を任せ、安倍氏は二階俊博氏を起用して党内抵抗勢力の「防波堤」にした。総裁と幹事長は、表と裏の「車の両輪」として機能してきた歴史がある▼ところが今回、高市首相はその片輪を外し、想定外の「電撃解散」に舵を切った。独走を選んだ背景には、高い内閣支持率への自負があったのだろう。鈴木氏だけでなく、麻生太郎副総裁さえも遠ざけた孤独な決断である。官房長官だった菅氏を中心に、史上最強とうたわれた「安倍官邸」のような「強いリーダーシップ」への憧れもあったのかもしれぬ▼だが、外された党幹部にとって、心中複雑なことであろう。無党派層の風は掴めても、組織票を固めるのは、地味なドブ板の積み重ねである。気付けば首相自身が孤立無援の「蚊帳の中」に閉じこもっていた…ということにならなければいいが。乾坤一擲の大博打が吉と出るか凶と出るか。寒風吹きすさぶ永田町の視線は、いつになく冷ややかだ。(熊)



