カタログギフト
2026年03月03日
古代ローマに「スポルトゥラ」と呼ばれる慣習があった。パトロンと呼ばれた富裕な貴族が、息のかかった政治家や庇護下の市民に食料や金品の入った籠を定期的に配る習わしだった。帝政ローマの1~2世紀に活躍した風刺詩人のユウェナリスは「元老院議員や執政官までもが列を作って施しを受けている」と嘆いた▼表向きは「ねぎらい」だったという。だが、そもそも人間は、見返りなき贈り物をするほど無欲な生き物ではない。施しの裏には必ず、何かが潜む。実際、財力と影響力を持つ有力者が配下を縛る見えない鎖となって機能し、政治はゆがめられた。ユウェナリスの痛憤もそこにあったのだろう▼先の衆院選で歴史的な大勝利を収めた高市早苗氏。当選した自民党議員315人全員に、3万円相当のカタログギフトを配っていたことが明らかになった。「御祝 高市早苗」と記されたのし紙付きで、総額は約1千万円に上る。「今後の議員としての活動に役立ててもらいたいと考えた」と国会で答弁したが、庶民感覚とはずれまくっている▼石破茂前首相が初当選議員15人に商品券を配り、国民の厳しい批判を浴びたのは、わずか1年ほど前のことだ。石破氏は「政治への疑念を生ぜしめた」と国会で陳謝し、全員が返却した。その教訓が生かされるどころか、今回は人数も総額も大幅に拡大している。裏金問題の記憶はまだ生々しいというのに―である▼高市氏は「法令上も問題はない」と繰り返す。確かに違法性はないのかもしれない。だが「違法でなければよいのか」という問いに、正面から答えていないようにも見受けられる。英語で「贈り物」を意味するギフト。ドイツ語では「毒」を指す。のし紙付きのカタログギフトが、恵みとなるか、毒となるか。高市政権にとって最初の正念場だ。(熊)


