戦争と暴力の恐怖
2026年03月09日
テレビの画面に映し出されたイランの首都テヘランの映像に息をのんだ。夜空を引き裂く閃光、立ち上る黒煙。米軍とイスラエル軍による突然のイラン攻撃だった。遠い国の出来事とはいえ、画面越しに伝わる現実の重さに、思わず背筋が寒くなった。どれほどの命が失われているのだろうか▼文明が進むにしたがい、人類は理性を獲得し、戦争と暴力の恐怖を克服する?どこかでそう信じていた。だがロシアによるウクライナ侵攻以降、時代はまるで真逆に走っている。しかも今、世界に恐怖をまき散らしているのは、ほかでもない、私たちが民主主義のお手本と仰いできた米国である▼今年の正月早々、米軍はベネズエラの首都カラカスを爆撃し、就寝中のマドゥロ大統領を拉致、拘束した。独裁者とはいえ一国の元首である。そしてわずか2カ月後、米国はまるで狩りの成果を誇るかのように「最高指導者ハメネイ師ら指導部を葬った」と発表した。国際法も国家主権もあったものではない▼米国側の作戦名は「エピック・フューリー(壮絶な怒り)」。イスラエル側は「ロアリング・ライオン(獅子の雄たけび)」。いずれも「神の怒り」を歌い上げる旧約聖書の世界を思わせる言葉だ。獅子は聖書では「メシア(救世主)」の象徴でもある。なるほどトランプ氏が自らを教皇に擬した画像をSNSに投稿したことも記憶に新しい。本気で自分を神に選ばれた存在だと思っているのだろうか▼「新約聖書」の「ヨハネの黙示録」には、偽の預言者が現れて天から地上へ火を降らせ、人々を惑わすとある。その先に待つのが終末の大戦「ハルマゲドン」だ。まさか予言の成就ではあるまい。だが、テヘランの夜空を焦がした炎を見てしまった私たちは、もはやそれを絵空事と笑えない。恐ろしい時代に入った。(熊)


