大分建設新聞

四方山

国のメンツ、法務省のメンツ

2026年05月11日
 自民党の会議室で怒号が飛んだという。物価高対策でも、政局でもない。刑事裁判をやり直す再審の制度を巡ってである。焦点は、裁判所が再審開始を認めた後、検察官が不服申し立て(抗告)できる仕組みをどう改めるか。法務省は「原則禁止」を掲げながら、抗告権の温存に躍起だ。これに対し、議員からは「何も変わらない」と異論が噴き出した▼死刑台から生還した袴田巌さんは、最初の再審開始決定から無罪判決まで約10年を要した。それでなくとも、日本の再審制度は「開かずの扉」に例えられるほどハードルが高い。ようやく扉が開きかけても、検察官の抗告で再び閉ざされ、時間だけが奪われていく。再審の扉の前で、当事者らはどれほど待たされてきたことか▼党内で主に声を上げているのが「再審法改正を求める超党派議連」のメンバーたちだ。議連を率いる柴山昌彦元文部科学相は、毎日新聞のインタビューで「再審法改正は、右とか左とかいう話ではない。人道、人権の問題だ」と語っていた。なるほどと思う。「保守」とは、急進的な変化を拒むことだけではあるまい。守るべきは、国のメンツではなく、制度への信頼であり、無実の人を救う法の力であろう▼清瀬一郎の名を思い出したい。東京裁判で東条英機の主任弁護人を務め、衆院議長として1960年の安保改定を強行採決した保守政治家で、革新勢力から「反動」と痛罵された。だが一方で、冤罪事件の救済にも熱心だった。その清瀬が司法に求めたのは「人間」に対する愛と社会正義の実現だった▼国会は「唯一の立法機関」のはずである。その国会が一行政機関の顔色をうかがっては、何のために存在するというのか。法務省のメンツより重いものがある。冤罪を訴え、救済を待つ人に残された、取り戻せない時間である。(熊)
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