大分建設新聞

四方山

向こう岸の相手

2026年06月15日
 「日本一」と「2位」が、わずか80㍍を隔てて寄り添う。豊後大野市清川町、奥岳川の峡谷に架かる二つの石造アーチ橋、轟橋と出会橋である。径間は轟橋が32㍍で国内最長、出会橋が29㍍でこれに次ぐ。長さ1、2位の石橋が、同じ町の同じ川に現存する。2025年度の土木学会選奨土木遺産に選ばれ、このほど認定書の贈呈式が開かれた▼出会橋は、阿蘇火砕流が刻んだ柱状節理の渓谷を縫う奥岳川と、轟川との合流点近くに架かる。それだけならば「出合橋」であってもおかしくないが、大正の昔、奥岳川の右岸の轟地区と、左岸の平石地区を結ぶため、両岸の住民の手で架けられたという。由来を思えば、「出会橋」の名は必然だった。橋とは単なる構造物ではない。向こう岸にいる誰かと会いたいという、切実な願いの結晶である▼その意味を思えば、4年に一度のサッカー・ワールドカップ(W杯)もまた、本来は世界に架けられる巨大な橋であろう。国境も言語も宗教も異なる人々が、一つのボールを追う。勝敗はある。熱狂もある。だが、その根底には、違いを越えて出会うという祭典の理念があるはずだ▼ところが北中米大会を巡る風景は、どうにもきな臭い。米国とイランの対立が影を落とし、イラン代表関係者の入国問題まで起きている。スタジアムに入る前から、すでに政治の笛が響く。前回大会では、ウクライナ侵攻を理由にロシアが排除された。ならば、2月にイランを突然攻撃した米国はどうか▼とがめるどころか、FIFAはトランプ氏に新設の「平和賞」を贈った。平等、平和を掲げる組織がこの体たらくである。これでは、橋を架けるどころか、谷を深くしているようなものであろう。向こう岸の相手を切り捨て、何が平和の祭典か。そんな嘆きの轟きが聞こえてくるようだ。(熊)
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