大分建設新聞

四方山

ニセ社長詐欺

2026年07月30日
 「石川や浜の真砂は尽きるとも世に盗人の種は尽きまじ」とは、大盗賊石川五右衛門の辞世の句。令和の世、「盗人」ではなく、「詐欺師」と言い換えねばなるまい。大分市の社会福祉法人が、代表者を名乗るメールを信じ込み、経理担当者が計1990万円を振り込んだ。送金を終えて上司に報告し、そこで初めて偽物と分かったという。県内初の「ニセ社長詐欺」被害と報じられた▼手口は単純だ。実在する経営者や役員になりすました偽メールを送り、「急ぎの支払いがある」などと言葉たくみに相手を信用させ金をだまし取る。社長の指示には逆らえないという組織人の心理を突く手法で、海外では「CEO(最高経営責任者)詐欺」と呼ばれ、以前から深刻な問題となってきた▼国内でも被害が広がりつつある。警察庁は今年2月、「法人を対象とした詐欺(ニセ社長詐欺)」として注意を呼び掛けた。狙われるのは、「上の指示」に疑問を差し挟みにくい組織風土である。確認することを無礼と感じ、命令に素早く従うことを忠誠とみなす。その一瞬のためらいに、詐欺師は入り込む▼頭をよぎるのは、水戸黄門である。格さんが「この紋所が目に入らぬか」と印籠をかざせば、悪人も役人も一斉にひれ伏す。不思議なことに、その老人が本当に黄門様かと確かめる者はいない。海外の視聴者なら「せめて身分証を」と突っ込むかもしれない。印籠一つで信じてしまう物語は、権威に弱い日本人の心性を映しているかのよう▼「社長だ」と聞けば、確かめる前に体が動く。悲しいかな、平均的な日本人の習い性であろう。いま、その紋所はパソコンの画面に現れる。だが、画面の向こうにいるのが黄門様とは限らない。一度立ち止まり、印籠の主を確かめる。盗人の種は尽きなくとも、詐欺の芽は摘める。(熊)
名鑑CDバナー
取材依頼はこちら
arrow_drop_up
TOP