大分建設新聞

四方山

天の道

2026年08月03日
 「天道是か非か」。古代中国の歴史家、司馬遷は『史記』で、世の不条理をそう問うた。仁を重んじた王子の兄弟は、新たな王者への服従を拒み餓死した。儒教の祖、孔子が愛した弟子の顔回も、貧窮のうちに若くして世を去った。一方で、暴虐の限りを尽くした大盗賊は、天寿を全うした。天の道は正しいのか、との嘆きである▼熊本から届く惨状に、その問いが重なる。最大震度7。イオンモール熊本では爆発が起き、八代市の工場では巨大な煙突が崩れた。球磨川に架かる植柳橋は一部が川へ落ちた。隆起した道路、押しつぶされた建物。現実とは思えない。あってはならないような光景である。多くの命が奪われ、1万人近くの人たちが炎天下での避難生活を強いられている▼2016年の熊本地震から、わずか10年である。街も暮らしも、まだ復興の途上にある。被災地の人たちの心中はいかばかりか。復興の象徴として修復工事が続けられてきた熊本城でも、石垣が再び崩れた。長い歳月と特別な思いが注がれた名城が、再び打ちのめされた。なぜ、また熊本なのか。答えようのない問いがこみ上げる▼県境を接する大分県内でも、11市町村で震度4を観測した。大分市の女性が軽傷を負い、竹田市内では落石で市道が通行止めになった。日田市で停電や水道の濁りが出たが、熊本に比べれば軽微だった。だが、無傷に見えても、安全が確かめられたというわけではあるまい。揺れを受けた橋や道路、のり面などは本当に大丈夫なのか。今こそ、点検と検証を次の備えにつなげたい▼今回、復興の象徴まで再び傷ついた事実は、災害からの再建に「終点」がないことを教えてくれる。元の姿に戻すだけでは足りない。次の揺れに耐えられる地域を築き続ける。それが、理不尽な天への私たちの答えであろう。(熊)
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