大分建設新聞

四方山

喝!

 
2026年09月14日
 「喝!」の一声でお茶の間を沸かせた張本勲さんが亡くなった。86歳。プロ野球最多の通算3085安打。「安打製造機」の異名にふさわしい大打者だった。5歳で広島の原爆に遭い、在日コリアン2世として差別とも向き合った。その人生は、日本の光と影を映している▼高校時代、野球部員の暴力事件で、無関係なのに責任を負わされ、甲子園への道を断たれた。後に野球部長が「俺は朝鮮人が嫌い」と話していたことを知った。それでも母からは、民族の誇りを持って生きるよう諭された。在日であることを、張本さんは隠さなかった▼兄のように慕ったのが力道山だった。同じ朝鮮半島にルーツを持ちながら力道山はその事実を伏せていた。若き日の張本さんが理由を問うと、力道山は血相を変えたという。自身の差別体験を語り、国民的英雄となった自分の出自が知れればファンが落胆する、と訴えた。張本さんはそこに、力道山でさえ背負った「差別の傷痕」と、その根深さを見た▼その張本さんは2023年、韓国紙のインタビューで「いつまで日本に『謝罪しろ』『金を出せ』と繰り返さなければならないのですか?」と苦言を呈し、韓国も自負を持ち、日本と対等に手を取り合うべきだと説いた。過去に縛られるだけでは未来は開けない、という思いだったのだろう▼関東大震災の混乱下で起きた朝鮮人虐殺事件から103年がたつ今月初め、千葉県内の民団事務所に、10円玉、5円玉、昔の50銭紙幣と、カミソリの刃が入った郵便物が届いた。「15円50銭」は朝鮮人には発音が難しいとして、自警団などが言わせた言葉だ。それが1世紀を経て脅しの道具としてよみがえった。張本さんは祖国に「いつまで」と問うた。ならば私たちの社会も問われている。「いつまで差別を繰り返すのか?」と。(熊)
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