アジテータ
2026年10月21日
街で見かけるミキサー車。大きなドラムをぐるぐる回しながら走っているが、あの中でコンクリートを作っているわけではない。生コンは工場で練り混ぜ済み。正式には「トラックアジテータ」と呼ばれ、運ぶ間に材料が分離しないよう、かき混ぜ続けている。止まることを知らない働き者。子どもたちに人気の「はたらくくるま」の代表格である▼そのミキサー車が思わぬ現場で頼りにされている。本紙6日付記事によると、臼杵、津久見両市と臼津生コンクリート協同組合が「消火用水供給支援に関する協定書」を締結した。山間部など水利の乏しい地域で林野火災が起き、消火用水が足りなくなった際に、ミキサー車で水を運ぶ。言ってみれば、走る巨大な水がめである▼災害への備えと聞けば、新しい施設や高価な装備に目が向きがちだ。だが、この協定の肝は、手持ちの車と人を地域のために役立てたいという、組合の心意気にある。民間と行政が手を組めば、巨費を投じずとも地域の防災力を底上げできることを示した。知恵を絞れば、予算の壁を越える道筋も見えてくる▼翻って国である。内閣官房の内閣広報室は、来年度予算の概算要求で72億円を求めた。近年は4億~7億円程度で推移しており、今年度予算の10倍を超える要求額である。木原稔官房長官は、動画などで政策を幅広い世代に届けるには従来の額では足りないと説明する。ネット上では、政権の宣伝に税金を使うのかと批判の声も聞かれる▼英語のアジテータには、「かき混ぜる装置」のほかに「扇動者」の意味もある。臼津のミキサー車は、手持ちのドラムに水を満たして山の火に備える。片や肝心の中身を練り上げる前に、ドラムだけが10倍に膨らもうとしている。巨費を投じて、世論まで都合よくかき回すつもりなのだろうか。(熊)


