「3」
2026年10月26日
たかが球団の監督人事、されど巨人の監督人事。松井秀喜さん(52)の新監督就任が発表されると、一般紙の一面に躍った。まるで国民の一大慶事である。待望の「ゴジラ」帰還で注目を集めたのが、背番号「90」。昨年6月3日、89歳で亡くなった恩師、長嶋茂雄さんが初めて監督になった時の番号だ▼由来がほほ笑ましい。1974年、現役を引退した長嶋さんに、当時小学生だった長男の一茂さんが提案したという。長嶋さんといえば背番号「3」だが、一茂さん自身も「3番打者、三塁手、背番号3」。三つの「3」を足して9、そこに0を付けて90になったという。三位一体に三種の神器。「3」はめでたい数字らしい▼「3」で人を動かした政治家もいる。田中角栄元首相も「初めに結論を言え。理由は三つに限定しろ」と周囲に説いたという。験担ぎより実用の知恵だ。奇しくも松井さんも「90」に三つの意味を重ねる。恩師が背負った番号、存命なら今年90歳になること、そして自身が巨人時代に付けた「55」と、大リーグ時代の「35」を足せば90になることだ▼もっとも、縁起のよい数字が人生を幸福に導くとは限らない。「親子鷹」にたとえられた長嶋父子だったが、ミスターの晩年は冷え切った関係がたびたび報じられた。父子の事情は外から分からない。それでも、幼い日の親子のやり取りから生まれた数字が、後年、寂しい陰影を帯びたことに胸が詰まる▼今、「90」はミスターの愛弟子に託された。松井さんは就任会見で、長嶋さんに「この姿を見ていただきたかった」と語った。長嶋さんの第1次監督時代は6年間、日本一に届かなかった。数字に吉兆を見いだしても、勝敗は計算どおりに運ばない。足し算の答えは一つでも、人と人との縁、その先の人生は、簡単には割り切れない。(熊)


